2023年5月23日、米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control :OFAC)及び韓国外交部は、北朝鮮の不正な資金調達スキームに関与した法人や個人に対し経済制裁を行ったことを発表しました。 北朝鮮が仕掛けたハッキングに関与したとして3件の北朝鮮の組織が制裁対象となり、その中には、サイバー攻撃を担当する部署として知られる110th Research Center(Lab 110)や、その親組織である朝鮮人民軍偵察総局第三局(Techincal Reconnaissance Bureau)が含まれています。これらの組織は共に、ここ数年に渡り暗号資産ハッキングを仕掛けているLazarus Groupなどの部隊のハッキング活動を監督・支援しています。OFACはプレスリリースにて、Lab 110が2013年に韓国の政府機関に対して行われたDarkSeoulマルウェア攻撃に関与していたとしており、長年サイバーセキュリティ界隈にあった疑念に対して明確な答えを出したことになります。 また、OFACと韓国外交部は、Chinyong Information Technology Cooperation Company、もしくはJinyong IT…
2023 年 2 月 6 日にトルコとシリアで発生した壊滅的な地震による死者は、現時点で 4 万 7,000 名に上り、世界の多くの人々が無力感を抱いています。このような惨状に加え、両国の政治的緊張によって物流が困難となり、いずれの国の犠牲者も援助を受けることが困難な状況に陥っています。このような規模の人道的危機が発生すると、人々が救援活動に寄付したいと望んでも、どこに寄付したらよいのか分からなくなることが少なくありません。最大の関心事は、どうすれば資金を本当に必要な人にできるだけ早く届けることができるかということです。 このような時勢において、暗号資産は人々への迅速な支援に向け、重要な役割を果たしてきました。例えば、何百万ドルもの暗号資産がウクライナ支援のため提供されています。暗号資産の利用者は、ロシアによるウクライナ侵攻開始直後の 2022 年 3 月 28 日時点で、既に 5,600 万ドル相当以上の暗号資産をウクライナ政府が用意したアドレスに寄付しているほか、デジタル通貨を受け入れる慈善団体への寄付も行っています。トルコ・シリア大地震の犠牲者救済に対しても、暗号資産が同様の役割を果たせる可能性があります。 Chainalysisでは、現在までに約…
暗号資産関連の犯罪で今最も問題の一つとなっているのは、DeFiプロトコルや特にクロスチェーンブリッジからの資金流出であり、近年被害が急激に増加しています。被害額ベースで、DeFiプロトコルから窃取された資金の多くは北朝鮮系のアクターによるもので、特にハッキングの精鋭部隊であるLazarus Groupが関与しているとみられます。Chainalysisでは、2022年の現時点までに、北朝鮮系グループがDeFiプロトコルから摂取した暗号資産の総額は約10億ドル相当になると推定しています。 しかし、本日2022年9月8日、私はAxie Infinity主催のイベントAxieCoinに参加し、良いニュースをお伝えする機会がありました。法執行機関と暗号資産業界の諸団体の協力により、北朝鮮系ハッカーによって盗まれた3000万ドル相当の暗号資産を差し押さえることに成功しました。これは北朝鮮グループによる盗難資金を差し押さえた初めてのケースですが、今後もこのような成功事例が出てくることでしょう。 これは、2022年3月に発生した、Ronin Network (play-to-earnゲームAxie Infinityのサイドチェーン)からの6億ドル相当の暗号資産の盗難事件における、我々の調査の成果です。Chainalysis Crypto Incident Response Teamが、高度な追跡技術によって盗まれた資金の流出先を突き止め、法執行機関や業界のプレイヤーとの連携により、この資産差押えに寄与することができました。 今回の差押えは、(流出時点と差押時点の価格差も考慮すると)Axie Infinityからの盗難資金の約10%ですが、犯罪者が不法に得た暗号資産を現金化するのが一層困難になっていることを示した一例と言えるでしょう。適切なブロックチェーン分析ツールの活用により、一流の調査員やコンプライアンス専門家達が最も洗練されたハッカーやマネロン関与者を食い止められることが証明できました。まだまだやるべきことはあるにせよ、これは暗号資産のエコシステムをより安全にするための我々の努力の一つのマイルストーンとなりました。 さて、この資金差押えはどのようにして行われたのでしょうか。以下にお伝えできることを示します。 Ronin Bridge事件の発生経緯と盗難資金の動き Lazarus Groupによる攻撃の発端は、Ronin Networkのクロスチェーンブリッジのトランザクションバリデータが管理する9つの秘密鍵のうち5つへのアクセスを得たことです。バリデータの過半数の秘密鍵を利用することで、2件の送金トランザクションが成立し、173,600…
本日は、暗号資産犯罪との戦いにおける非常に重要な日となりました。米国の複数の法執行機関とドイツの連邦警察の協力によって、ロシアを拠点とした、収益で世界最大のダークネットマーケットと言われる「Hydra Market」が閉鎖に追い込まれました。 さらに同日、米国司法省はHydraの主要なオペレータの1人を告訴し、また米国財務省外国資産管理局 (OFAC) はHydraを制裁対象として、100を超える暗号資産のアドレスをSDNリストに追加しました。同時にOFACは、以前Chainalysisがマネーロンダリングにおける役割を調査した、ロシアの暗号資産取引所であるGarantexについても制裁対象としました。 OFACが指定した全てのアドレスは、Chainalysis製品にて織別が付けられ、KYTをご利用のお客様には、設定に応じて「制裁対象」のアラート (sanctions alert) が表示されるようになります。 以下で、HydraおよびGarantexの違法行為を分析し、またOFACがリストに掲載した制裁対象アドレスを共有します。 Hydraとは? Hydraはロシア語圏だけを対象としているにも関わらず、ここ数年にわたり、突出して規模の大きいダークネットマーケットとなっています。 2021年、Hydraは全世界のダークネットマーケットの収益の75%に相当する、17億ドル相当の暗号資産を受け取っています。 Hydraはまた、その洗練された運営方法でも有名です。例えば、Uberに似た仕組みによって匿名の運び屋を手配して麻薬取引行ったり、買い手が人里離れた森に現金を埋め、売り手が後からそれを掘り出すといった、非接触型の手法で麻薬取引を行っています。Hydraは、ダークネットマーケットにおける取引の機密性やセキュリティを熟知しています。 Hydraやそのベンダーは、厳密なコントロールと管理が行われているインフラストラクチャーに備えられた複数の事前承認済みサービスを使って、ベンダーやサイバー犯罪者が暗号資産をロシアルーブルに換金できる、マネーロンダリングサービスを提供しています。 Hydraでマネーロンダリングサービスを提供するベンダーの例 実際に2020年、Hydraは他のダークネットマーケットや、盗難資金を保持したウォレット、ランサムウェアのオペレータ、詐欺などから、6億4,500万ドルに相当する暗号資産を受け取っています。 暗号資産を使った制裁回避に関する最近の懸念を考えれば、Hydraの閉鎖と制裁措置は正に最適なタイミングでの対応と言えます。このプラットフォームが提供するマネーロンダリングサービスが、制裁対象となっているロシアの企業や個人に便宜を供与している可能性があるからです。これらの対応に加え、米国の司法省は、ロシア在住のDmitry Olegovich Pavlovを、麻薬の流通とマネーロンダリングを目的にHydraの運営に関わった容疑で告訴しました。2015年以来、Pavlovは自身の会社であるPromservices…