暗号資産の領域において米国ではいくつかの進展があり、規制当局がデジタル資産の取り扱いに向けて動き始めていたり、当局が金融機関に対しそのようなデジタル資産へのつながり(exposure)を把握しリスクへの対策を講じることを求めていたりといったことがあります。ここ数ヶ月の間に米国では、アメリカ合衆国通貨監査局(Office of the Comptroller of the Currency: OCC)が国法銀行はデジタル資産の信託(カストディ)サービスを顧客に提供可能であると明言した他、ワイオミング州銀行局は初の特別目的預金金融機関(Special Purpose Depository Institution: SPDI)として、暗号資産取引所Krakenを承認しました。暗号資産取引所が銀行としての扱いを受けるのは世界でも初めての例です。また、州法銀行監督官協会(the Conference of State Bank Supervisors: CSBS)は、暗号資産関連の会社がよりグローバル展開しやすいように法規制を変える計画を明らかにしました。 このような動きは、人口拡大、特に若い消費者に向けて、銀行などの金融機関が新たな資産クラスに手をつけようとしていることのあらわれと言えるでしょう。しかし、米国財務省金融犯罪取締ネットワーク(the Treasury…
2020年8月27日、Lazarus Groupとして知られる北朝鮮系ハッカーによる約2.87億ドル相当の暗号資産窃取に関連する、280件の暗号資産アドレスの所有者に対し、米国司法省は民事没収の訴状を提出しました。この訴状では、その北朝鮮系グループが行った2つ目の取引所ハッキングに関する資金移動についても分析しています。 本件は、Lazarus Groupが暗号資産取引所から盗んだ資金をロンダリングする手法がますます洗練化していることを如実に表しています。しかし、そのようなロンダリングにも関わらず、FBIやHSI、IRS-CIといった捜査機関は資金を追跡し、その最終的な行方を突き止めることができました。さらに、場合によっては、取引所でもハッカーが盗んだ資金を入金したり取引したりするのを防げたこともあります。 国家ぐるみでますます洗練化する企てに直面する中、Chainalysisの政府機関のパートナーが国家の安全を揺るがす案件に対処できたことは非常に喜ばしいことです。また、弊社はそのような機関のお客様に調査ツールを提供し、サイバー犯罪者が高度な手法を使ってロンダリングしようとする資金を追跡する一助となっていることを誇りに思います。さらに、そのような資金の取引を防ぐのに必要なトランザクションモニタリングツールを取引所に対して提供していることについても同様です。 米国司法省の訴状の全文はこちらから確認できます。本記事では以下にケースの一部を取り上げ、Lazarus Groupがマネーロンダリングの手法をどのように高度化してきているか、政府機関や取引所がどのようにブロックチェーン分析で対策しているか、について詳説します。 ますます洗練化するLazarus Groupのマネーロンダリング手法 訴状に関連する2つの取引所のハッキングで盗まれた資金には、ビットコイン、イーサリアム、アルゴランドの3種類の暗号資産が含まれています。ただし、ハッカーは現金化のために利用するサービスへの資金移動を追いづらくするために、チェーンホッピングと呼ばれる手法を用いています。これは、資金を他種類の暗号資産に替えることで、ブロックチェーン上の追跡を困難にするというものです。この手法で、ハッカーは盗んだ資金をビットコインに替え、他のサービスで現金化を行いました。 この動きの例として、このグラフではハッカーが盗んだビットコインの一部を動かしている 様子を、以下のChainalysis Reactorのグラフで確認できます。 グラフの右下部を見ると、ハッカーがビットコインを2つの取引所(Exchange 4、Exchange 9)から移動させていることがわかります。このビットコインは前述のチェーンホッピングにより、ハッキングで盗んだ他種類の暗号資産から替えたものです。捜査官は、ブロックチェーン分析ツールによってビットコインに替えられるまでの暗号資産の動きを追跡し、替えられた後のビットコインが”Exchange 6”に移動したことを突き止めました。 Lazarus Groupのハッカーが新しいマネーロンダリングの手法を用いている一方、以前から変わっていないこともあります。それは、OTCブローカーを用いた暗号資産の現金化です。OTCブローカーは、公開市場を利用したくない(できない)個人の買い手や売り手の間で、取引を仲介する役割を担っています。通常OTCブローカーは、独自の場所というよりも取引所で活動してますが、このようなOTCブローカーは、多額の暗号資産を決められた価格で現金化したいトレーダーによく利用されています。 グラフの右上部を見ると、ハッカーが盗んだ資金の大部分を”Exchange…
訳注: FATFに参加するメンバーには単一の国だけでなく複数の国から構成される政策機関も含まれることから、原文では「国」を意味する”country”ではなく、「法律の管轄区域」を意味する”jurisdiction”という用語が使われています。日本語では、原則としてそれに従い「法域」と訳しています。 今週、Financial Action Task Force (FATF)は、12ヶ月という期間で、公共及び民間部門において、暗号資産関連の規制について施行すべきこと(FATF勧告)がどの程度進んでいるかについてのレポートを発表しました。このFATF勧告は、元々2019年6月に発表されており、FATFの200以上のメンバーやオブザーバーである法域に対して、以下のような規制を施行することを求めています。 取引所やホステッドウォレットなどを含む暗号資産サービスプロバイダ(Virtual Asset Service Provider: VASP)を免許制とすること 本人確認(Know Your Customer: KYC)やエンハンスドデューデリジェンスを徹底すること VASPにおいてトランザクションモニタリングによるリスクベースのAML/CFTコンプライアンスを義務付けること トラベルルールコンプライアンス − 1,000…
Looking for the English language version of our blog on Japan’s 2020 cryptocurrency regulation updates? Click here! 日本では2020年5月1日より、暗号資産(仮想通貨)に関する様々な法改正が施行されました。これによって、これまで未解決だった論点への法的回答や、暗号資産関連の業務で準拠すべきことが明確化されたため、日本で活発に暗号資産ビジネスを行う者にとっては歓迎すべきことでしょう。また、この法改正は暗号資産ビジネスの需要を鑑みると合理的であり、法的な位置付けの保証は、変化が目まぐるしいこの業界における最新の技術やビジネスモデルを支える要素となります。 以下に、日本における暗号資産関連の法規制の概要と今回改正された点をまとめます。 注: 2020年に施行された改正法以前では、いわゆる”cryptocurrency”を指して「仮想通貨」という用語が法的にも使われていましたが、2020年の改正法からは、「仮想通貨」に代わり「暗号資産」という用語が採用されています。本記事は、「仮想通貨」の用語が使われていた2016年の改正法についても触れていますが、ここでは混同を避けるために便宜上あえて「暗号資産」の用語に統一します。…